「古代進というキャラクターを古代進たらしめている要素とは何だろうか」
「何で今更」
「この問題が浮上してきた理由は以下のような状況だ」
- ヤマト2199、2202の古代進が古代進らしくないので自分は不満である
- 方舟、2202の古代は自分から見える範囲の女性古代ファンから好評である。格好いいと評価されている
「つまり、何か古代進なのか。何をどうすれば古代進に見えるのか、その条件は何か。君は何が違うのか。そのあたりが問題なのだね?」
「そうだ」
「まず君の前提を言ってくれ」
「子供の頃は古代が好きではなかった。少し感情が行動に直結しすぎるし、へっぽこだ。ああいうのがヤマトの中心にいるのは問題だと思っていた」
「でも、それが変化したの?」
「そうだ。全ての人間が完璧だと観客はその世界に入っていけない。心の不完全さを共有する誰かが作中にいなければならないのだ。古代進こそがそのキャラクターだ」
「そうすると、【分からないなら記録しておけ】と相原に言ったが【記録ならもうしています】と言い返されて変な顔になる古代は作品の入口になれる古代で、【友軍艦艇に敬意を払え】と一方的に怒るだけの古代は入口になれない古代なのだね?」
「まあそうだな。そのようにまとめると、何か違うのかが分かる。女性ファンにとっての古代とは、外部から見ている存在なのだ。【僕が古代】という気分に浸る必要はない。だから入口は必要ない」
「でも、君から見ると入口が閉じて門前払いされた気分になったわけだね?」
「そうだな。しかし本題は別にある」
「……というと?」
「実は、さらば宇宙戦艦ヤマトのデラックス版を今頃手に入れて企画の経緯を読むと、面白いことが分かってきた」
「それはなに?」
「企画の最初の段階で、こういう話が出てくる」
- ガミラスを滅びして学んだ古代は、もう戦えない
- 順当に行けば、古代は破壊兵器であるヤマトを壊してしまうだろう
- それではエンターテイメントにならないので、その方針は捨てる
「しかし、方針は捨てられるとしても、ガミラスを滅ぼした古代という問題は企画に付いて回る」
「どういう意味だい?」
「さらば宇宙戦艦ヤマトで、過剰なまでに善意の存在として反乱までしてテレサに会いに行くのも、最後に特攻してしまうのも【贖罪】という価値観を持ちこむと一貫するからささ」
「まさか」
「いいかい。この場合の罪を意識しているのは古代と雪だけだ。他の乗組員はあまり分かっていない。あくまで古代と雪だけ。そして、さらば宇宙戦艦ヤマトで特攻するのは古代と雪だけ」
「えー」
「更に言えば、古代は雪に対して【一緒に死のう】とは言えない。そもそも雪を残して死ぬことはできない。雪は既に死んでいる必要がある」
「じゃあさ。そもそも古代の旅は贖罪の旅だったというの?」
「そうだな」
「じゃあテレサの存在は何?」
「古代の良心だろう。テレサの解放とは古代の良心の解放だ。まず古代の良心を解放し、そして、古代の破壊者の側面であるズォーダーと戦う。しかし、戦ってもズォーダーにはけして勝てない。何回勝っても別の姿で出現するだけだ。なぜなら古代自身の破壊者としての側面の象徴だからだ」
「えー」
「だから、破壊者としての手法を用いた都市帝国戦は味方を死なせるだけで古代は勝てない。そこで古代は方針を変えざるを得ない。生き残った者達をヤマトから降ろして、自分の命を未来と交換しに行く。この時の古代は、破壊者としての側面を全て脱ぎ捨てたことになる。そうなった時点で、古代の善意の側面を象徴するテレサが登場できる」
「つまり、彗星帝国やズォーダーとは、古代の負の側面の象徴であり、テレサは古代の善の側面の象徴ということだね?」
「そう考えると、いろいろ分かりやすいことに気づいた」
「それが【勝利か、クソでも食らえ】というトラウマの帰結なのだね?」
「そうだ」
「そこがポイント?」
「どうもそうらしいぞ」
「なるほど。ややこしいね」
「問題がもっとややこしくなるのはヤマト2199だ」
「どういう意味?」
「【勝利か、クソでも食らえ】がそもそも存在しない。トラウマがあるかどうかという問題以前に、その契機となる出来事そのものが存在しないのだ」
「待ってくれ。そうすると、ヤマト2199の続編は必然的にトラウマを持てないぞ」
「そうだね。実は、ヤマト2199の続編でさらば宇宙戦艦ヤマトリメイクは逆立ちしても作れないということに気づいてしまった」
「えー。話はそれで終わりかい?」
「いや、SBヤマトに飛ぶ」
「SBヤマトがどうした?」
「実はこの認識をSBヤマトに持ちこむと、なぜSBヤマトがさらば宇宙戦艦ヤマト的なのか分かった」
「どういう意味?」
「SBヤマトの古代は大量虐殺のトラウマ後の古代なのだ」
「ガミラスを滅ぼしてないよ」
「でも、遊星爆弾の進路を変えさせた結果宇宙ステーションを破壊してしまい。多くの人を殺したトラウマがある」
「トラウマ後の話だから、さらば宇宙戦艦ヤマト的になっていくのは必然だってことだね」
「そうだ。そして最後に古代が特攻することも必然だ」
「雪が一緒じゃないよ」
「SBヤマトの場合、雪は死んでないからな。しかも、トラウマを共有すらしていない」
「島はトラウマを共有してるよ」
「島は障害者の息子という十字架を既に背負っているからな。古代のような贖罪は必要ない」
「そうか、君が【SBヤマトまではオッケーだが、ヤマト2199以降はうーん】となった理由が見えてきた。トラウマの要素の有無だ。SBヤマトヤマトの古代にはあったが、ヤマト2199の古代にはなかった」
「まあ、そんなところだろう」
古代復活篇 §
「そうすると復活篇はどうなるんだ?」
「うん。実はね。非常に面白いことに気づいた」
「それは?」
「さらば宇宙戦艦ヤマトの豊田有恒案が復活篇に一部似ているのだ」
「どのあたりが?」
「移住先の惑星を守るために圧倒的な敵に孤軍奮闘するヤマト。豊田有恒案だとそこでヤマトが沈んでしまい、ヤマトの犠牲が移住を可能とする。復活篇だとヤマトが勝っちゃうのだけどね」
「なんと」
「実は復活篇も【古代の贖罪】という要素が濃厚なのだ。娘に罪を言い立てられ、古代は贖罪の旅を始めることになる。贖罪だから奥さんを探すことより罪をあがなうことが優先される。また、娘がピンチの時は古代一人で行く必要がある。彼の贖罪だからだ」
「なるほど」
古代の古代らしさ §
「結局話をまとめると、どこに行き着くわけ?」
「古代の古代らしさとは何か、それは古代を見る人それぞれにあって、各人が古代の古代らしさを持っているものと思う」
「で、君に場合は?」
「親の死、兄の死というトラウマから復讐すれば良いという考えに取り憑かれるが、良き師である沖田と出合って変化していく。が、ガミラス壊滅というトラウマをまた背負ってしまう。そのトラウマに突き動かされる部分があってこその古代だと思うよ。そこから過剰に行きすぎた理想主義的に言動にも行き着く」
「じゃあ、ヤマト2199や2202は君とは違う古代像を持った人たちが作っているヤマトなのだね?」
「そうだろうな。そこはもういいよ。それらの作品をそれが良いと思って作る人と、良いと思って受け止めるファンがいるのなら、外野がとやかく言う話ではない」
「なら君はなぜこんな話をするのだ?」
「ここから先は自分の扱う世界の外側だと明示するためだ」